何ヶ月か前、NHK・BSで放送され、録画しておいた『泥の河』(小栗康平)を昨日みた。この映画をみるのは、もう3回程になるだろうか。私は映画はTV録画したものしか現在は観ないが、今回観終わった後、録画を残しておくかどうか迷った。
私は既に何事も『捨てる』歳になったと自覚している。( その理由をここに書くべきことではない。 )そこで、その録画は消去した。この映画を否定したのではない。言ってみれば、この映画と対峙するのは、もはや私は疲れるからだ。『辛い』映画は私はもう観るのが疲れるのだ。 『辛い』? 例えば、「きっちゃん」の姉はこう言う。
『きっちゃんのお母さんは石鹸の匂いがする』
このセリフ一つで、この幼い姉の心の傷の疼(うず)きが、私にはずきずきと伝わってくるのだ。 のみならず、ここに登場する子供たちの無意識下にあるに違いない『いきどほる心』を私は感じずにはいられない。
私は以前、釋超空のうたの感想で、それに触れた。それを、この日記の最後に引用して、映画『泥の河』は私はもう卒業しよう。
今回、この『泥の河』をみていて、昔みた『キクとイサム』( 今井正監督 )を思い出していた。この映画は確か映画館で観たような気がする。昭和34年の映画だから、もしかしたら私が映画館で観た最後の映画かも知れない。
この映画で、黒人と日本人の混血の姉弟が登場する。かれらの祖母にあたる北林谷江( 実年齢の倍の役だったが )の好演が印象的だった(特にラストシーン)。
また姉役の高橋恵美子は現在も活躍中だという。
この映画については下記の解説が私は良いと思う。
http://nihon.eigajiten.com/kikutoisamu.htm
このキクとイサムにも、おそらく、『いきどほる心』が、少なくとも、かれらの意識下にはあったに違いない。
-----------------------------------------
『いきどほる心すべなし。手にすゑて、蟹(かに)のはさみを もぎはなちたり』
(釋超空)
--------------------------------------------
私はこのうたを読むと、いつも、ある映画に登場する少年の心を連想する。
その映画は『泥の河』(1982年、小栗康平監督)だ
この映画で喜一(きっちゃん)という少年が登場する。彼の母親は、貧しい宿舟で娼婦として生計をたて、きっちゃんと彼の姉を育てていた。この映画の時代背景は、日本が未だ敗戦の傷を色濃くひきずっている時代であり、この映画に登場する人々もまた戦争の深い傷跡を彼らの心の奥にひきずっていた。そういう時代だ。
たぶん10歳前後この姉弟は、母の実相を実は知っていた。その母の心の痛みは勿論この幼い姉弟の心の深奥での痛みでもあった。
映画では、この子供たちのそのような痛みを露わには表現せず、寡黙にさりげなく表現する。たとえば、この姉は「(おひつの)お米の中に手を入れるのが好き」だと言う。「暖かいから」だと言う。この一言で、この幼い子の心奥にある、ある痛みを観客である私たちは痛烈に感じるのだ。
大阪・天神祭の日。きっちゃんは、彼の友人を、ある遊びに誘う。
その遊びとは、小さな生き物である蟹に油をたらして火をつけ、逃げ回るその蟹が焼け死んでいくのを見るという遊びだった。
言うまでもなく、きっちゃんのこの遊びの行為は彼の心の深奥に潜んでいる彼の痛みの屈折した表現に違いない。
この少年の心の中の屈折した痛みは、このような残酷な遊びとしてしか「いきどおる心すべなし」だったのだろう。
きっちゃんの「いきどおる心」は、釋超空の「いきどおる心」とは恐らく無縁ではないと私は思う。
この映画『泥の河』の脚本:重森孝子と音楽:毛利蔵人が光っていたことを追記しておく。
----------------------------------------
・笠智衆という俳優さん
私は笠智衆という俳優さんが好きである。
どこが好きかと言われても実は困る。
好きだから好きなのだ。
私は、笠智衆という俳優さんは大変器用な俳優さんだと思っている。
ここで『器用さ』という言葉は決して『技巧』のみを意味しているのではない。
なにか『人間的な味わい』というような意味も、その『器用さ』に含ませている。
よく言われるように、この『器用さ』を引き出した人は小津安二郎という天才かも知れない。
恐らくそうだろう。
しかし、もともと笠智衆という人に、そのような『器用さ』が内在していなければ、たとえ天才といえども、その『器用さ』を引き出すことは出来ないはずである。。
では、その『器用さ』とは?
具体例を二つ出そう。いずれも小津安二郎の映画である。
一つめ。下は『長屋紳士録』の中の一場面である。
http://www.youtube.com/watch?v=XK4ccsCI6Wc
二つめ。下は『彼岸花』の中の一場面である。
http://www.youtube.com/watch?v=rbQw09HF8To
私は、これらの映画の笠智衆に、上記した『器用さ』を感じている者であり、また、それゆえにも、笠智衆と言う人に敬愛を感じている者の一人だ。
注:上のYou TubeのIRLは現在削除されている。
0 件のコメント:
コメントを投稿